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個人を偲ぶ

中野精吾君の想い出

宇津木宏征

 五日市の小さな川原。手ぬぐいと組ヒモだけの急ごしらえのフンドシ姿で、十六歳の僕等が笑っている。海津が、高山が、青木が、僕が、そして中野が……。高揚した気分の湧きあがった、顔、顔、顔。立高一年の秋に出かけた、野営のときの写真だ。
 実際は小さくてピンボケの写真だが、想い出の中の像は鮮明だ。中野の訛りのある語り口や、大きな体を揺すっての笑い声までがよみがえってくる。クラスを異にし
た二年生以降、年賀状の往来すらせず、互いの生活






は知らずにきた。たった一年間の同級生の絆。だが何歳になろうとも、もし僕等が再会したら、きっと、あのキャンプの話からはじまって、立高仲間、野球、コンパ……。止めどなく話し続けたことだろう。僕等の青春を、立高時代を。
 言わずもがなの言葉を吐くのはくやしいが、悲しい、寂しい、虚しい。やり切れなさに、僕の心の動揺は当分静まりそうもないのだ。合掌。

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