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個人を偲ぶ
 飯沼 芳夫
 高校時代、彼は自分の志「東大に現役で合格し、将来裁判官になること」を掲げていたと聞く。そのために努力をし、同時に勉強ばかりでなく、私の所属していた編集部で、編集長として皆のまとめ役をかって出て、また自治会活動への協力も惜しまなかった。幅広い活動の中で、もしかしたら目的達成へのあせりやジレンマのようなものを感じていたのかもしれない。大なり小なり人生についてとか、現実の社会に悩みを持つことは青春の特性でもあったと思うが、彼は人に相談するタイプではなかったので、一人苦しんだと思うと今でも残念だ。
 東大合格発表の夜、自ら命を絶った彼に「なぜ」という疑問と、合格が彼の人生においてどれだけ重い意味を持っていたのかを考えた時、強い衝撃を受け、やりどころのない怒りを覚えたような気がする。しかし、彼の一生懸命だった姿、プライド、大いなる希望、挫折、人生への閉塞感など察するに余りあるものを感じ、受け入れるしかなかった。
 社会に出て三十年以上経つが、IT化、競争激化の中、難局にぶち当たっている今、そして世の中全体が殺伐として、警察や司法に裏切られたという声を耳にするとき、あの純粋に物事を考え、責任感のある、そして多方面に目を向け活動していた彼が生きていたら、この現実を見て、次世代に向け我々がなすべき指針をどのように語ってくれるのだろうか、聞いてみたい気がしている。

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