山岸忠雄
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アジア、中国、日本一企業と金融の改革
古島義雄著
発行:シグマベイスキャピタル(株)3500円+税

 今は無き日本長期信用銀行の国際畑を歩んだ後に、長銀研究所を経て華麗に大学教授へと転身した著者が、長年の実務・調査・研究をもとに書いた「企業と金融の改革」の専門書です。アジア通貨危機の問題から始まって、アジア、中国、そして、日本の企業と金融の改革の問題が分析されています。専門書という性格上、正直言って、誰にでも読めて楽しいという本ではありません。
 でも、序文は著者の構想や気持ちが込められており、必読です。特に、次の箇所は著者のこの本に対する意気込みと姿勢を表しています。
「……塞翁が馬」の故事は、われわれ個人にも企業や国家などにも当てはまる。うまくいっていた経済がその成功の故に次の失敗の原因となることもある。その失敗をうまく処理できれば、次の成功の原因になることもあろう。……制度的枠組みを変えていけるならば、日本やアジアは経済を再びよりよい方向に戻すことができよう。……日本やアジアも金融危機、経済危機をもたらした旧体制からの脱却、改革を必要としているのである。……」
 各章は、先行業績など踏まえ実に丁寧に書かれています。しかし、読むには専門知識をかなり必要とするので、著者には申し訳ないが、興味が湧く個所だけ本文のところに戻ることにして、導入部と結論だけ読み進むとよいです。第3、4章の「中国の企業改革」と「中国の金融改革」のところは、読んでいて分からないところも多いけれど、中国理解に役立ちます。(この春卒業の中国留学生が修士論文の参考文献に本書を挙げていました。本当に本書で書かれているような考えられないことが中国では行われてきたし、今でも行われていると聞き、驚いてしまいました)
 最後の第7章「わが国金融システムの課題」は、著者が銀行時代の経験をもとに、教科書的に分かりやすく書かれているので、読みやすく、必読です。(著者は自身を少し傍観者的立場に置いたり、被害者的立場においたりという点が見受けられるのは、ちょっと気になりますが……)