還暦つれづれ
  
一巡りして 396とおりの新たな出立
夢があり希望があり 次世代への思いがある
新しい泰山木の生長とともに始まる
私たちの旅路
 
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わが人生
01 石井健一 
 いつも、いつも、『泰山木』ありがとう。
 あっという間の六十歳.というのが実感。皆様と一緒のころ私は、一体何だったのでしょう?
 剣道部に属しておりました(奥住、竹内、草野、大島、下川、海老沢、吉田、長澤、加藤の皆さん、お元気ですか?)。
 まわりの皆さんは、よく勉強をしておりました。
 「世界の歴史」がとても好きでした。少し年配の先生の「ネブガドネザール・・・」という、口をプクプクしていう言い方が、心地良かったことを覚えてます。
 綺麗なおんなのこがおりまして、皆さんうわさをしておりました。
 体育祭の夜、めいっぱい声を出して、歌を歌いまし「玲瓏の水・・・・!」
 あっという間に三年が過ぎ、浪人です。
 ヘリコプター事故で亡くなったトヨタの坂本君と「一日で14時間は勉強すべし」と、長野県のお寺に40日こもりました。住職の娘さんが.秋篠宮きこさん風で.美しい方でした。御茶ノ水女子大学に在籍というわけで.彼と私が気合を入れられた最大の理由でした。進学は、先ごろ亡くなった丹下健三氏が発端です。
 在学中は、キャンパス中がヘルメットと、棹だけ。
 私は、さっさと背を向け、一日三回の剣道の稽古と、アルバイト、お金が貯まると全国行脚。そして生涯の友人がたくさんできました。
 本が友、建築から逃げ出して、演劇へ。もう大学も不要というわけで、就職し大阪へ。
 サラリーマン生活は、たぶん私の人生の中で、一番のんびりしていた時間でしょう。
 妻を娶り、長女が生まれたばかりで東京へ転勤。この会社は生涯を託すに足らず、というわけで初心の建築設計へ。
 そして、独立。友人と仲間に恵まれ、あっという間の25年。医療、福祉を中心に、住宅はもちろん、工場、また音を大切にする空間など公共、民間を問わず設計・企画しております。

 最近の生活の様子です。
 まみこ(連れ合いです)が友人二人とスペインに行くという(その友人とはおのおのの連れ合いが死んだら三人で、同じ老人ホームに入る約束をしている友人のことである)。
 旅行が近づいたある日、食い入るようにパンフレットに見入っている彼女の後ろから、そっと覗くと、
「情熱 の スペイン旅行!!」
 とある。
 私も5年ほどまえに.スペインに行ったことがある。
 その時のパンフレットには、忘れもしない、
 「激安 の スペイン旅行!」
 とあったことを記憶している。
 ただひたすらに、連れ合いが、長生きをしてくれることを祈っている毎日である。
 我が家に「タロウ」という犬がいる。私を見つけると、一目散にやってきて、前足(手というべきか?)で私の脚にしがみついて離さない。首を少し斜めにしながら、
 「ケンイチ、イノチ!」
 といった風情で、私を見上げるのである。私もじっーと彼の目をみつめながら、聞いてみる。
 「じゃー何かい、私と死ねるかえー?」
 彼の目は一瞬、点になり、間があって、やがて少し肩を落としている風に、犬小屋に戻っていくのである。
 いまでも、彼の判断は正しい、と思っている。
 連れ合いが、「川越の『丸広』に行こう」と言うので付いて行くことになる。ここいらでは、「丸広」というのは、皆さんでいうと三越、伊勢丹にあたる。
 迷子になってはいけない! と思い、必死になって付いていくはめになる。突然連れ合いが立ち止まるので、私も歩みを止め、そして彼女と目をあわす。
 すると.連れ合い、
 「あなたもするの?」
 わたし、
 「?」
 右手の壁にトイレのマークが目に入りました。
 「おまえ百まで、わしゃ九十九まで」の深い意味を理解した一日でありました。