還暦つれづれ
  
一巡りして 396とおりの新たな出立
夢があり希望があり 次世代への思いがある
新しい泰山木の生長とともに始まる
私たちの旅路
 
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次世代に残したいもの
   ─美しく緑豊かな地球を守るために
10 木村富美子 (旧姓・山下)
 宇宙飛行士たちはみな、地球に戻って来たとき「宙から見える地球は、青くて美しく、国境などどこにもなかった」と、口をそろえて言っている。なのに、実際の地球は、あちこちで戦争をしており、森林の面積は年々減少し、すさまじい勢いで砂漠化が進んでいる。
 アフリカの砂漠化は、大部分が内戦と、薪炭用の木の伐採によるし、アマゾン流域のジャングルの減少は、大資本の進出による開発と、原地住民の焼畑農業によるという。増加する一方の炭酸ガスの発生を減らす工夫は、世界的な課題であるし、森林によって吸収されない炭酸ガスによる地球温暖化は、深刻な問題になっている。
 私は、10年以上も酸素吸入しなければ生きられない生活をしているから、空気の汚れには敏感であり、地球規模の森林破壊には強い関心を持っている。自由に外出することもままならない私でも、自然を守るために何かできることはないか、と考えていたとき、新聞の片隅に載っている記事が目に入った。増え続ける人口と、それに伴う薪炭材需要の増大等により、年々43.8万ヘクタールの森林が失われているタンザニア、キリマンジャロの地に、地元住民に呼びかけて、緑豊かな森を作るために植樹しているNPOボランティア団体の活動のことだった。
 書き損じ葉書や余った年賀状、古切手や使用済みテレホンカードが、苗木を買う費用の一部として役立つという。植林にかかる苗木は1本15円。書き損じ葉書1枚で3本、使用済みテレカ一3枚で1本、古切手10キログラムでおよそ600本の木を植えることができるという。
 これなら私でもできると、すぐに私が属する呼吸不全障害者団体の仲間や知人に呼びかけた。幸いにも多くの人が協力してくれ、すでに1000本以上の木になっている。捨てればゴミになる物が、緑の森を作るのに役立つのだから、こんなすばらしいことはない。十六期のみなさんとも、この活動が一緒にできたらいいのだけれど……。
 そのNPOは、薪にするために次々と伐採していたら何にもならないからと、薪をあまり使わず煮炊きできる改良カマドの普及や、人間が自立して生きていくために必要な、教育、をも、同時に行っているという。
 学ぶとは、生きる知恵、考える力を身につけることだろう。焼畑をしなくても、肥えた土地を作る工夫を学べば、アマゾンのジャングルも守られるのだ。
 日ごろ、緑あふれる美しく平和な地球を、未来の子どもたちに残したい、と考えている私に届いた十六期の還暦記念泰山木植樹の通知は、思いがけなく、とても嬉しい知らせだった。酸素を吸い車椅子に乗った病み疲れた姿で、久しぶりに旧友に会うのはためらわれたが、それよりも、木を植えるという行事に参加したいとの思いの方が強かった。 たった1本でも、私が係わった泰山木が、20年、30年後に大きく育ち花を咲かせて、私たちが当時そうだったように、未来の立高生の心を癒やすだろうと想像すると、非常に感慨深い。