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父との別れ |
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12 堀池美智子 |
(旧姓・志村) |
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もう少しで89歳の誕生日を迎えるという時、父が亡くなった。私もあと二か月程で還暦を迎える時でした。
亡くなる三日前、入院中の父のところへ行った時、なぜかわからなかったけど、私と父との間には隔たりがあって心が通わなかった。乗り越えられない何かがあるように感じて、「お父さん、何でそんなによそよそしいの。そんなにされると悲しくなって、来たくなくなってしまう。いつもの優しい目をして」
私は心の中で思ってしまっていた。今から思うと、きっとこのとき父は、私達をおいてこちらの岸からあちらの岸へ渡ろうとしていたのだろう。
その三日前に行った時は、父はすっかり私の子供になったみたいで、私は頬がげっそりこけた父がいとおしかった。帰り際に、「これで帰るけど、また来るわね」と言うと、それまでは何を言いたいのかなかなか聞きとれなかったのに、この時は「たのむ」という言葉が聞き取れて切なかった。もっとそばにいてあげればよかったのに、用があるからと帰ってしまった。
さらにその三日前のこと、帰り際に、かすれる声で「ありがとう」と言ってくれた。
「お父さん、こちらこそありがとう」
私が60歳近くになるまでいてくれてありがとう。そして「ごめんなさい」、もっと親身になってあげなくて。
父親という防波堤がなくなり、私もこの歳になってやっと真の意味での大人になっていくのかな。
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