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畑仕事 |
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17 中込三彌子 |
(旧姓・高瀬) |
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定年退職後は、米を作り野菜を作り、できたら鶏も飼ったりして自給自足の生活を夢見ていました。秋には山に入って枯れ葉をたくさん集め土にすき込んで化学肥料を使わない自然農法に取り組んでみよう。とれた野菜で、手間をかけた料理を作ろう、などと考えていました。
昨年、今まで健康そのものだった夫が遠い国に旅立ってしまい、人生とは本当に明日のことはわからない、だからこそ今日一日を、今この時を大切に生きなければという思いを実感したのでした。
日曜日といえば、二人で畑仕事をしたこと、時々日陰で休みを取ってお茶など飲んだこと、こんな平凡な日常が大切な日々であったと思い出されるのです。
庭の梅をもいでつけた梅干し作り、畑でとれた大豆を使い米糀と麦糀と塩を混ぜて樽に仕込んだ味噌作りなども、二年あまりの夫の看護の間にすっかりやめてしまいました。
最近になり、夫の死後まもなくその本を訳した友だちが届けてくれたマーリオ・リゴーニ・ステルンの『雷鳥の森』をもう一度読み返してみました。「孤独の中でからだを動かしていると、カルシウム注射以上の快復効果があった」という一節にラインが引いてありました。引いたのは、この私に他ならないのです。そうだ、からだを動かそう。畑仕事を始めよう。
今、畑は草ぼうぼうです。でも、来年こぶしの花の咲く頃に、じゃがいもの種芋植えをしよう。そんなことを考え始めている今日この頃です。
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