還暦つれづれ
  
一巡りして 396とおりの新たな出立
夢があり希望があり 次世代への思いがある
新しい泰山木の生長とともに始まる
私たちの旅路
 
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 留守番を頼まれる庭師を目指す
    の
  仕事が終わってお施主(=お客)サンとのお茶飲み話
20 上村文雄 (旧姓・久保)
 どうも、オソマツ様でした。アッ! きょうはビールはダメです。あした藤沢の仕事で朝が早いので。この前、ご馳走になったときは運転役のカミサンにだいぶ怒られました。
 エ?! ワタシが本当に楽しそうに木の手入れをしてるって? ダンナにそうおっしゃられると嬉しいネェ。そりゃサラリーマンの頃と違って、うるさい上司も部下もいないで、ワタシの思ったとおりに仕事ができますから。オット失礼。ダンナも現役サラリーマンでしたッケ。
 マア、還暦過ぎたら遊んで食えると散々取られた年金も65歳からになるし、銀行は潰れるは、新聞を開けば徴兵制なんて言葉が躍る今の世の中。何やら主義にあこがれた若い頃には想像もつかない世の中になっちまい、これからどうなる? と心配はありますがネ。
 そうそう、あそこの紅梅の下にヤブガラシがあります。コイツは木に這い登って木をダメにしてしまう、庭師の敵。何度でも生えてきますから、ダンナもお休みのついでに取ってやってください。
 そして、摩周湖近くに嫁いだ娘は婿サンのどこが良いのか行ったきり。いかに便りのないのが良い便り≠ニいったって、初孫ができても知らん顔。息子は本当にやりたい仕事探し中と言えば聞こえはよいが……。飲みたいのを我慢して、史学科なんて訳のわからねえ大学へやったのは大失敗。カミサンは息子に相手にされない分、ワタシの箸の上げ下ろしまで口やかましい。それでも、こうして松やツツジのお手入れをさせていただくときは、思ったように庭木を手入れすることだけを考えていれば済みますから。手元(=雑役)のカミサンもさすがに手入れには嘴くちばしをはさめませんヤ。
 コラコラ、ラッキー君、お菓子はダメですよ。ダンナ、犬にはオヤツのクセを付けるとよくありません。人間同様、肥満や糖尿病が増えているそうですから。
 仕事が終わればワタシがきれいにした庭を眺めながら、こうしてお茶をご馳走になって、ダンナや奥サンに喜んでいただける。しかもお金もいただける。こんな結構な仕事はありませんヤ。もっとも、収入は生活保護一歩手前ですがネ。まあ、人間、金だけじゃありません。
 とろで、ダンナ、さきほど奥サンが冬の庭が少し寂しいとおっしゃってましたが、次にお邪魔するとき、ナツミカンを一本お植えしましょう。昔はこの辺では冬の寒さに耐えられませんでしたが、最近はよく実をつけます。冬中、黄色がきれいですし、春には収穫、無農薬のマーマレードもよいものです。イヤ! お金は結構。「洟垂れからの植木屋サン並みにお払いしますよ」と、いつもたくさんにいただいているお礼ですから。
 オイ、モクセイに松葉が引っかかってるぞ、すぐに取れヤ。イヤ、ダンナ、何回言っても注意が足りネエ。困ったカミサンで。
 どうもありがとうございました。また秋になったらうかがいます。害虫や雑草でお困りならばいつでもご連絡ください。
 エッ! 奥サンお土産を。いつも申し訳ありません。お国の地酒とあっては帰りにカツオでも買って今晩早速、いただきます。(家内の目を恐れ、フィクションということで)