還暦つれづれ
  
一巡りして 396とおりの新たな出立
夢があり希望があり 次世代への思いがある
新しい泰山木の生長とともに始まる
私たちの旅路
 
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新しい仕事に新しい目標
29 若井千鶴
 2003年の同期会は出席できなかったのですが、山岸会長より「還暦までに、その後の生き方を考えよう」という宿題が出されたと伝え聞きました。それに加えて、『泰山木』で「アフター5」の特集。人生80歳と仮定して24時間に置き換えてみると還暦は夕方の六時……。会社から解放されてほんとうの自分に戻れる時間帯であることを学びました。それが契機となって、自分の直感と友人たちの援護射撃でマッサージ・プラクティショナー養成の学校に通うことに決めました。
 
 マッサージは前から興味がありましたが、動機はと聞かれるとお恥ずかしい限りです。授業でマッサージをうけられるからという冗談みたいなものでした。その冗談をまじめに、それはあなたにぴったりよ、という友人が出て、そんな時同期会の宿題のことを話したら、もうそれ以外にない。学校も一番いいのを探そう、と協力してくれたのです。アメリカ人の意見だけではちょっと心配で、最終的には日本で中高年の就職関係カウンセラーをしている友人に相談すると「Go! やるべし」と出ました。
 
 こうなったらやるっきゃないと、2004年の春に基礎コース(スウェーデン・マッサージ)をまずとりました。日本語でもわからない骨や筋肉の名前を覚え、体の仕組みを学ぶことはかなりたいへんでしたが無我夢中で終了。さて終わってみて、改めてこれは一体なんなのだろうかと考えてみました。要するにアメリカのマッサージは「エナジーワーク=エネルギーワーク」が基本だったのですが、それが今ひとつ信じられない。こちらのマッサージを受け手の立場から熟知している友人に相談すると、「今はスタンフォード大学の病院でも、エナジーワークの処方は取り入れているし、それなしにマッサージはできない」と断言したのです。
 
 そこで夏はそれを中心に教える「エサレン」のコースをいやいやながら取りました。
 エサレンというのは、カリフォルニアのビッグ・サー(サンフランシスコと、ロスアンジェルスの間を通る海岸線(ルート1)上、モントレーをすぎて車で30分くらいの位置)にあるエサレン研究所で開発されたマッサージ方式です。エサレン研究所はスタンフォード大学の同級生であったマーフィーとプライスの二人がトランスパーソナル心理学の研究をメインに1960年代初頭に創立したもので、海を真ん前に豊かな自然と天然温泉の魅力にヒッピーが多く集まったことでも有名です。
 「癒やし」のはしりのようなものでマッサージも考案されました。十九世紀に始まったオイル・マッサージ、スウェーデン式マッサージをもとにして、トランスパーソナル心理学の各種ボディ&マインドワーク(ゲシュタルトセラピー・センサリーアウェアネス・フェルデンクライス・メディテーション・太極拳・合気道・気功等々)を加えてデザインされ、今は指圧、中国マッサージも取り入れています。
 そこからパロ・アルトの学校に先生が派遣されてきて、私たちはビッグ・サーまで行かないで学ぶことができます。エナジーワークとその仕組み、自分の感情エネルギーの消却法、エナジーの動かし方、ダンスやヨガなども教えるクラスです。先生はアメリカ人ですがヒンズー教をベースにした宗教観をもつ方なので、ヒンズー教のお経みたいな、歌みたいなのを、クラス全員で毎回歌わされました。祭壇のようなものに火を入れてハーブを燃やすのですが、それが臭くて、臭くてたまらないのです。それでも九月に無事終了し、その時点で就業ライセンスと、保険も取得。加えて「エサレン」のライセンスは世界中どこでも通用するものでした。
 
 秋は、プロになる際自分の特徴となれるコースをとろうと思って、背骨と腰骨の問題を専門にする「サイアティック・ケアー」を選びました。
 
 次は就職の問題。今、人気のある職種なのでフリーでは固定収入はむつかしいと判断しました。この判断基準には『泰山木』で紹介された「庭師うえ村」の久保君の記事がたいへん参考になり、久保君、編集各位に感謝しております。そういうわけであちこちに履歴書を出した結果、現在のマッサージ・オフィスから面接のお返事をいただき二か月のトライアルということで採用されました。2004年の12月18日に仕事を始めて結局三週間後には契約書を交わしレギュラーチームに入れていただいたのです。
 
 「サイアティック・ケアー」のコースはむつかしかったのですが、二月には課外実習もすべて終えてサイアティック・ケアー・プラクティショナーの資格を取得。営業面でこれが今一番役に立っています。
 
 マッサージの基本「エナジーワーク」のエナジーというのは「気」。「き」または「ち」と発音、「エネルギー」と訳されています。
 この体内の「気」を動かすには自分のエネルギーと相手のエネルギーとをひとつに繋げて循環させます。最後は頭と手足から抜いて終わる。受け手から「体が軽くなった」とか、「すっきりしてよかった」といっていただく時は自分の体もすっきりするのです。体すべてと体の周囲をも網羅して流れるエネルギーを他の人間のエネルギーと合流させて流す川をクリエートしていくと、不思議な人間、生き物への感動、驚きを覚えます。
 
 サイアティック・ケアーの先生はユニークな方で、筋肉ひとつひとつに『意志』があるのに脳からの指令ですべての筋肉を支配しようとする人が多い、「筋肉の『意志』に対する思いやりの欠如が体の不調につながるケースがけっこうある」「脳は体の一部に過ぎないことをもっと自覚すべきだ」等々、貴重なことをたくさん学びました。
 
 職場は二か所に分かれていてプラクティショナーが計30人、外国人はインド人の青年と日本人の私と二人。固定客の多い先輩は皆エナジーワークの得意な人たちで、いずれも菜食主義、ヨガをやりスピリチュアルな人々で、シンプルライフをモットーとしているそうです。
 
 先日は82歳のお客様がいらして(そのお歳にしては体の自由がきかない)、お洋服のお世話もさせていただきマッサージしましたが、とっても喜ばれて週末に再度予約をいれていただきました。お付き添いの娘さんからも「あー、つれてきてよかった。母がこんなに喜んでくれるなんて……」と言っていただきました。
 おばあさまが私の腕をしっかり握って離さず「この次もしてくれるわね」と尋ねた時にはもうかわいくなっちゃって「もちろんです」と言ってぎゅっと抱きしめてしまいました。こうして心がかよったというのでしょうか、最高の幸せを感じます。
 日本で知らないうちに培われた気配りの基本、そして「つぼ」の知識も日本人であるなら知っていて当然ですが、ここではとても役立っています。ありがたいことです。  オーナーは65歳でスコットランド出身の女性です。二軒のオフィスの経営者としてだけでなく、マッサージ・セラピストとしても現役で活躍されています。あの「しまり屋」で有名なスコットランド人ですが、それだけにこの業界で成功したビジネスのノウハウに精通していらっしゃり、時に応じて細かく教えてくださいます。私と同世代の方も数人いるし年齢のことは気にならない職場です。彼女に何歳まで働けるかお聞きしたら、「私だって65歳で現役よ。まだまだやるわよ。できなくなったらその時のことよ」ですって。うわー! この根性。恐れ入りました。
 ということで私も歳のことは気にせず、さらに勉強もつづけながら「カリフォルニアで一番のセラピスト」を大きな目標に掲げてがんばろうと思いました。
 
 同期会でいただいた指針、『泰山木』で触発された「自分自身への問いかけ」、MLをとおして応援しあう仲間、生き生きと生きている同期生の存在、そして家族、友人の協力。そのすべてのおかげで新たな目標に向かって一歩を踏み出すことができました。「アフター5」のこの進路、感謝をこめて「泰山木ファミリー」の皆さまにご報告申し上げます。