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奈良街道

 京都から奈良への道程は約1時間半、大方の人には退屈な道中である。しか
し、窓外を過ぎ去る景観に注意を払うなら、関東とは異質な種々の現象に気づく
であろう。
 旅館をあとにした後、バスは、はじめ加茂川にそって下るが、時には川床に美
しい友禅染が目もあやに優美なパターンを織りなす。精巧典雅な友禅染は元禄の
頃、友禅の創始した織物であって、今日市内にはニ百四十軒の友禅染場がありそ
の伝統を誇っている。大宮人や都の子女の華麗な衣装の要求に応じ得たのも、清
冽な加茂川と桂川の流れあってのことである。水こそは染色工業の大切な立地条
件なのである。左には東山三十六峰の峰々が連なり、その南端は宇治川にのぞん
でいる。
 道が加茂川からはずれて間もなく・・・・・・
 (中略)
 ・・・・・・春のものうい陽をあびて、打続く平凡な“耕地”、しかし、それは自然
に戦いをいどんだ農民の十数世紀にわたるたえざる努力の結晶なのである。

資料提供・撮影:岩野 浩二郎