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大澤康介
 退職後はリンゴの木の下に山羊をつないで暮らしたい。確かどこかの校長先生の言葉だったように記憶する。同窓の人達は今働き盛りで、ヤギとつきあう暇は無いという人が多いだろう。しかし一方、自由で穏やかな世界に魅かれる人もいるかもしれない。
 百姓になろうと思い始めたのはいつ頃だったか。
 四十歳を過ぎて「土が恋しくなる年頃ですよ」と人に言われたのを覚えている。昔から興味本位の性格で、情報産業というおもしろい仕事に長年従事できたことは幸運だった。しかし齢とともに付加価値をはがした実質だけとつきあえないものかと考えるようになった。無添加・無加工・無増量、都会では相当な贅沢品だ。というわけで、自分のものは自分で作る身分、つまり田舎の百姓がいいなと思うようになった。
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