■「自我の狭窄」からの脱却
それから、ハンディネットワーク・インターナショナルの経営者、春山満さんとの出会いも強烈でした。この方は二十六歳のときに筋ジストロフィーが発症して、あと何年生きられるか日々葛藤しながら、徹底したユーザーの視点からケアビジネスを開発して、ちょうど車椅子の目の高さに商品が落ちてくる「バリアフリー・ベンダーマシーン」という自動販売機などのヒット商品を次々と生み出しています。この機械でしたら、妊婦さんもかがまなくていい、子供も、車椅子の人も使えるということなんですね。一種のバリアフリーの考え方なんです。
春山さんは「テンポラリー・アビリティー」という言葉をよく使われました。「一時的な健康者」という意味で、人は一時的な健康者にすぎないということです。「赤ちゃんは重度のアルツハイマーだ」、何を考えているんだかわからない、どこへ行っちゃうかわからない。これは徘徊老人と一緒です。女性は時に妊婦になり、若者もケガをすることがある。私たちが完全に健康的なのは、ほんの一時期なんです。一生のサイクルで考えると、大半が障害者であったりするわけですね。 |
そのうえで、春山さんは「無くした機能を勘定してもはじまらない。残った機能を生かせ」と強く言うのです。特別養護老人ホームのお年寄りはみんな車椅子ですが、その九割の方はつかまり立ちできる。ところが歩きたがらない。それを春山さんは、「自我の狭窄」が起きているというんです。自分が世の中で存在価値がなくなったと思い込み、グッと自我の中に閉じこもっていく状態です。これを引き戻すにはモチベーション、自分の力で立ち上がる動機づけが必要だという、彼の言葉には非常に示唆を受けました。
司会 ありがとうございました。これからの私たちの生き方にとって大きなヒントになったと思います。まだまだ語られるべきことは多々あると思いますが、時間が来ました。これからもこのような情報を交換しながら、しっかりとした「老い」を迎えられたらと思います。長時間お疲れさまでした。
(2001年11月2日 於:国分寺市ひかりセンター) |