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鷹書房弓プレス刊 
2500円+税

 1977年6月、ロンドンに赴任したばかりの私は、エリザベス女王の戴冠25周年「シルバージュビリー」のパレードを、押されに押されながら見物していた。この年はかの「鉄の女」サッチャー首相が誕生した年であるが、彼女が大鉈を振るって病んだイギリス経済の大改造をしていることに私の関心はなく、3年半の英国駐在中は、コベント・ガーデンのオペラ、ストラッドフォードのシェイクスピア劇、ブロンテ・カントリーや画家コンスタブルの風景を求めて歩いたりと、「遊びの合間に仕事をする」と嫌みをいわれるほどであった。そして時は過ぎ、2002年日韓共同主催のサッカー・ワールドカップ大会でイギリスサッカー界の貴公子「ベッカム様」がアルゼンチン戦をフリーキックで決めた勝利には、4年前、フランス大会アルゼンチン戦で彼が味わった屈辱的な敗北に4年間じっと耐え抜いたイギリス人の不屈の闘志を見た思いがした。 ベッカム人気が相変わらず続く中、今度はこの本の著者、榊教授もはまっているという魔法少年「ハリー・ポッター」が日本に上陸、大人気となった。

 先に述べたように私はすっかりイギリスにはまっているわけだが、英文学を研究してこられた著者のこの書は、どちらかといえば研究者向けで、十代からの単なるイギリス好きに過ぎない人間にはいささか「硬い」。ここで語られているのは『ハリー・ポッター』の著者J・K・ローリングのほか、19世紀初頭のジェイン・オースティンからエミリー、シャーロット・ブロンテ姉妹、トマス・ハーディ、ビアトリクス・ポッター、そして20世紀初頭のE・M・フォースター等の作家が生きた時代の社会及び価値観の変遷である。
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