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愛育社刊 2000円+税

では、なぜいまだに先生と交流があるのかというと、先生が、私の属していた文芸部の顧問をしてくださっていたからである。
 文芸部の同人誌『空瓶』の合評会のとき、先生はみんなに、よい随筆を書きたいなら、枕草子や徒然草など古典の随筆を最初から読むこと、他人に読んでもらえる小説を書くなら、名作をたくさん読むように、とおっしゃった。受験勉強も忘れて、森鴎外や夏目漱石や国木田独歩や幸田露伴など、夢中になって読みふけったことを思い出す。私が同人誌に俳句を出したとき、先生に、『奥の細道』は読んだことがあるか、と問われて、最初の部分と有名な俳句しか拾い読みしていなかったので恥ずかしくなり、慌てて精読した経験もある。また、文化祭で、日本語について研究発表することにしたときも、言葉が時代によってどのように変化していったかを調べるとおもしろい、とアドバイスをしてくださった。ご著書の中でも、「なに気なく使っている言葉に、時代から時代へと語り伝えられてきた歴史の重みを気づかされる」と、古典教育の意義を上げられている。
 さらに「“正答到達主義の克服”として、今までは精密かつ分析的な読解指導が中心であったが、もっと自由な考え方や想像力を生かし、自分の考えをまとめ表現に結びつけていくことができるような、主体的な読みの能力と態度を養い育てていく指導が大切」と主張されている。私は国語が好きなのに苦手だった。それは、正解は一つだけという点にあった。こうもとれる、ああも考えられると悩んでしまったのだ。だから、先生のご意見は嬉しかった。
 私の紹介文も、「情報を読み取って自分の判断を加え表現する主体的な読みの力」が試されているようで、はなはだ心もとないが、なにより、国語の先生、小中高生を持つ親御さん方には、ぜひ読んでいただきたいと思う。