当初は、ジャガイモ、トウモロコシ、大豆を作って食べれば飢えないだろうと考えたが、野菜や果物の豊富さは全く予定外だった。にわか百姓の我が家の敷地の中だけで、三つ葉、アスパラ、サラダ菜、トマト、キャベツ、キュウリ、大根、ハクサイ、ニンニク、枝豆、さやえんどう、サクランボ、イチゴ、メロン、洋ナシ(もちろん全て有機無農薬)などがとれる。近所の農家ではこちらで初めて知った高級野菜や果物も栽培している。こちらの果物は大きくて甘い。特に、真っ赤に熟れたプラムの甘さは格別で、夏には、誰でももぎたてのプラムが食べられるが、熟したものは傷つきやすいので商品として店に出ない。
魚も種類が多い。カニは活きたものが食べられるし、サケもシーズンには自分で釣れる。二年前知床の沖で大ぶりのサケとソイ(アオソイ)を釣って、ソイはつくりに、サケはイクラをとったりイズシにしたりして食べたが、新鮮な甘みは都会では出会えない味だ。ホタテやカキ、ウニも殻に入ったままのものが手に入る。網走湖や藻琴湖はシジミ、シラウオの産地だ。冬、氷の上で釣るチカ、ワカサギも一度行けば食べきれないほどとれる。昨年はイカのシオカラ以外にスルメ、マスのトバ、タラでカマボコなども自家製造した。
この他、野生のシイタケ、マイタケなどキノコの種類も多く、自家製トウフやソバを作る話など、食べる話は際限なくなるが、この地の特徴となるものをもう少し紹介すると、酪農家、養蜂家が近いので牛乳、肉、ハチミツが手に入る。従ってヨーグルトや初乳のカッテージチーズ、ベーコン/生ハムが作 |
れ、天然酵母のパン、スグリや山ブドウのジャム、コクワ/マタタビ酒などを加えて自然食品の食卓を自前で用意できる。寒いから味噌も漬物も上手にできる。タクアン、タカナ、粕漬け、もろみ漬け、キムチ、等々。寒さが保存食品を作る行程で重要だということや、ここでは手間さえかければきわめて豊かな食生活ができること、そして百姓は微生物の相当な知識が必要だということなどを実感している。
こちらに来て一年がかりで井戸を掘り家を建てた。幸い設計・施工ともに良い人に恵まれ、四季を通じて快適な生活を送らせてもらっている。冬は、戸外で零下二十度になることもあるが、屋内は薪ストーブ一つで鉢植えバナナが育つ暖かさで、冬の朝も早起きが苦にならない。
道路から家の入口まで八十メートルほどあって、この間の除雪はユルクナイと見ていたが、近所から譲り受けたトラクターに除雪機をつけてあっけなく解決した。トラクターがあると牧柵用のカラマツ材や、羊の牧草ロールなど四百キロを超えるものでも一人で運べる。畑は全部合わせても一町歩弱なので、種まき、施肥、除草、収穫などは非力な「にわか百姓」の腕力でもナントカ出来るが、耕起・砕土になると昔の馬や牛に代わって機械の力が必要だ。去年は夏に女満別音楽祭で、ハンガリーのリスト音楽院の教授からヴァイオリンの個人指導を夫婦で受けたので、ウチの畑は満足に草とりが出来なかった。当然の結果として秋の収穫もさんざんだったが、シカ(大豆の先を何度も食べに来た)と長雨が絶好の言い訳になった。 |