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 高尾のブナが危ない

●ところで、高尾というところは、専門家から見てどうなんですか?
○新井 高尾は、暖温帯林と冷温帯林の混生する環境として、非常に貴重な場所なんです。冬はかなり寒いですが、江戸時代の高尾はもっと寒かったようですね。そこに、もう少し高い所を拠点にするブナが自生している。いま「東京に残る原生林」という展示をやっていますが、奥多摩にも日原の奥とかに原生林があって、あの白神山地のような寒冷の山で知られたブナも、高尾以外にも日原と三頭山で見ることができます。ところが残念ながら、ブナの子どもの木が育ってこない。実をつけても「しいな」といって、中身が空っぽの種子なのです。気候温暖化の影響とみられますが、残念ながら今後、高尾山から貴重なブナが消えていくことは明らかですね。
●最近では、里山への認識が高まっていて、高尾でも圏央道のオオタカ問題なども起こっていますが、こうしたことについてはどう取り組まれているのですか?
○新井 おっしゃるとおり里山は、人々とのつながり、生活の中での自然資源とのつきあいがいかに大事であるかという問題につながっています。高尾山をトンネルでぶち抜く圏央道計画は、これまでいろいろな面で人が親しんできた身近な自然を壊し、変えてしまうもので、一度壊してしまえば人間にはとても元には戻せないのです。オオタカ問題は、それに対する一つの材料であるとは思うんですが、自然はオオタカだけではすまない複雑なものなんですよね。ありふれた動植物もふくめ、そこにある自然全体がオオタカをも存在させるのですから。博物館では、皆さんが身近な自然に目を向け、関心を持ってもらえるよう活動しています。皆が自然に関心を持ち、自分で判断できるようになるのが大切なんだと思うんです。もっと自然の中に入り込んでほしいですね。
●わかりました。今後は、この博物館でどんなことを企てていますか?
○新井 やはり自分の専門である高尾の気候についての調査を深めたいと思っています。また、小学校や中学校に生活科とか総合的学習というのがつくられて、自然とのふれあいについて幅広くつき
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