して、在宅の人たちにサービスをするという考えは全くなかったのです。じゃ、そのころ寝たきり老人がいなかったのかというとそういうわけではなくて、家族の人たちが面倒をみていたという状況でした。保健婦さんがお風呂を持って回るというくらいはあったのですが、公の機関がそういった問題に携わるということはほとんどありませんでした。貧しい人、身寄りのない人を老人ホームに入れて、状況によっては最後まで面倒をみる、という時代だったんです。私は生活保護のケースワーカーとしてそういう仕事も含めてしていましたが、その後児童相談所で働いて、数年前に福祉事務所に戻ってきた時には全く様子が変わっていました。高齢者を対象とする課ができたり、特別養護老人ホームができたり、ヘルパーの人たちを高齢者のご自宅に派遣するというようなことが行われるようになっていたのです。
ここで、今の高齢者というのはどんな人たちなのか、を考えてみますと、明治の終わりから昭和の初め生まれ、第二次世界大戦をくぐり抜け、経済の高度成長期を働き抜いて、今、年老いている人たちです。その方たちとお話ししてわかったのは、核家族化が進んでいく中で新しい時代を生きていこうと努力してきたことです。ある有料老人ホームでの話ですが、「親や夫を看取ってきたけれど、子供たちにはあの苦労をさせたくない。それで、私はここを選後んだのです」ということを言う人が多かった。親や身内を看取った世代ではあるけれど、子どもには |
させたくないんですね。自分たちは自分たちで責任を持って生きたいとがんばってきたその結果、老親だけ、一人暮らしのお年寄りだけの世帯が非常に多くなってきています。それは特に地方の農村で深刻でして、こういうところには若者の仕事がないことから、若い世代は都会に出て、老人だけが残されるわけです。年とってきてそこで暮らすことがだんだん大変になってくると、都会にいる子どもたちが親を呼び寄せる。実は私は仕事でこうした高齢者の人たちと話す機会も多いのですが、その人たちはあまり幸せではないように思われるのです。文化や環境の違いのほかに、長い間にできてしまった子どもや孫たちとの大きなギャップの問題があります。広くない家で気を遣って暮らすより老人ホームに入りたいという相談をうけることもあるんです。
■家族介護から社会的介護へ
さしあたって元気な高齢者でもこうした問題があるのです。介護を必要とするようになったときはどうなのでしょうか。ここで介護の形の変化をみていきましょう。そうしますと、家族介護から社会的介護に変わってきていることが指摘されます。家族だけでみることができなくなった、というのが実際のところです。例えば起きていることが不可能になった人をお風呂に入れてあげたいと思っても、自宅のお風呂に入れるのは非常に難しいですよ。よく住宅 |