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6 ルーマニアの生活 |
ルーマニア料理はペトリナ夫人のおかげですっかり私の妻の得意料理になりました。典型的なルーマニア料理としてサルマーレをご紹介します。これはロールキャベツの元祖みたいな料理でクリスマスの時にそれぞれの家庭で我が家のサルマーレを作るために主婦が腕をふるいます。キャベツは酢キャベツ(ザワークラウト)を使います。酢キャベツはドイツだけでなく中東欧地域で広く食べられていますが、ルーマニアでも毎年11月頃になると大量のキャベツを買ってきて酢キャベツを漬けます。長い冬の唯一のビタミン源ですので大きな樽にいくつも漬けて家庭の地下の倉庫に貯蔵されます。
サルマーレの中身はお米とひき肉です。北に行くほど米の比率が高くなります。ペトリナ一家はトランシルバニアのクルージュ出身ですのでお米の比率が多いタイプです。それを一日かけてトマトと共に煮込んだのがサルマーレです。ギリシャやブルガリアあたりでは酢キャベツの代わりに葡萄の葉っぱを使いますが、ルーマニアは寒冷地ですので酢キャベツが主体です。他にもチョルバというシチューやミテイテイという焼肉やサラダデビネテというナスのペーストのサラダやおいしいものが沢山あります。銀座松坂屋の向かいにダリエというルーマニア料理専門のレストランがありますので興味のある方は一度行ってみて下さい。
ルーマニアはワラキア地方を中心に葡萄とワインの大産地でもあります。フランス・ワインの半分は実はルーマニアからバルクで輸入されフランスでブレンドされたものです。白ワインはリースリングが主体ですが私はマスカットが大好きです。赤ワインも沢山あります。プラムから作ったお酒にツイカという強い蒸留酒があります。トランシルバニアやハンガリーではツイカを二段蒸留してパリンカ(ホリンカ)という50度くらいの強いお酒が飲まれます。ところでルーマニアのクリスマスは本当にクリスマスらしい素晴らしいものです。必ず雪が降るホワイトクリスマスで、イブには子どもたちが近所の家をまわりコリンダといわれるクリスマスソングを歌いプレゼントをもらいます。お互いの家を訪問し合いサルマーレやご馳走が振舞われ、12月25日になると教会のミサへ行きます。静かで厳かなクリスマスです。イースター(ペシュテ)も楽しいお祭りです。カソリックと正教ではイースターの時期が何故か一週間違います。つらくて寒い長い冬の終わり、イースター(ペシュテ)の一ヶ月前に(3月)マルチショール(「春が来た」という意味です)というお祭りがあります。お互いに小さな花をプレゼントしあうとても楽しいお祭りです。その後に敬虔な信心深い人達は肉を食べるのをやめ、1ヵ月後のイースターには肉を食べてお祝いします。敬虔なクリスチャンは毎週金曜日には肉を食べず、魚や野菜しか食べません。
私達が滞在していた頃の日本大使は古川清氏ですが、ポケットマネーで学校に文房具を寄付されるなど大変立派な大使でした。最近まで日本経済新聞の夕刊にコラムを書いておられたのでご存知かもしれませんが、古川氏はその後、東宮侍従大夫として皇太子殿下妃雅子様の出産の時には随分活躍されました。雅子様のお父様の小和田氏とは外務省時代の同期生で仲良かったことがご縁と聞いております。今でも古川元大使御夫妻を囲んで当時ブカレストに滞在した仲間で、マルチショールの会と称して1年に1回集まっています。当時ブカレストにいた在留邦人は女性、子どもすべて入れて100人程度でした。しかも6割近くは大使館・日本人学校・ジェトロやジャイカといった政府機関で我々民間企業のほうが少数派でした。おかげで私も日本人会会長、日本人学校委員長、商工会委員と歴任し、古川大使以下に大変お世話になったものです。そういった関係で今でもこのような集まりを持っております。古川大使の後任は杉浦大使でしたが、この方のご夫人はとてもチャーミングで気品のある方でした。大使夫人をはじめ在留邦人のご婦人方は何か現地に貢献をしたいということで、エイズの子どもたちの病院に慰問や寄付をするなど色々な活動をしていました。英国からも尼僧や若い女性が大勢ボランティアで献身的に恵まれないエイズの子どもたちの世話をしているのを見て、キリスト教の愛の精神に心を強く打たれた、と妻はよく語っておりました。
ルーマニアは日本より国土が狭いのですが、変化に富んだ多彩な自然のある国です。ドナウ川が黒海に流れ込むデルタ地帯は野生動物や鳥の宝庫で世界遺産にも登録されています。ドナウ川では多くの魚が採れますが中でもナマズが有名です。ナマズといっても人の丈くらいある巨大なもので、現地にいくと、ナマズのチョルバ、ナマズのバターいため、ナマズのから揚げ……とナマズだらけになりいささか食傷気味になります。 |
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