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 戦争が終わり、日本が民主主義国家に生まれ変わったとはいえ、まだまだ戦前の「忠君愛国」の空気が色濃く残っている時代であった。決められた思想教育のために歴史的事実を捻じ曲げたり、誇張したり、英雄伝説をこしらえ上げたり等々、歴史絵本は積極的に利用されたのだろう。戦後の幼少時代でさえそのての歴史絵本が巷に出回っていた。そしてどの場面を見ても「忠君愛国」の言葉にあふれていた、と思う。「高山彦九郎の皇居遥拝」の場面などはその最たるものだと思う。そういう意味では「忠君愛国」をキーワードにした戦前の歴史絵本は作りやすかっただろうし、また、国家権力を通じて販路も確保できたであろう。
 今はどうだろうか。国民の目に触れることの少ないごく限られた世界ならともかく、決められた思想教育の目的で歴史絵本を作るということは大多数の読者の支持を得られないだろうし、史実から遠ざかる歴史を作ることになるので、かえって難しい作業になるであろう。底を流れる「諸行無常」「盛者必衰」等のキーワードを拠りどころに、物語を推し進めていくことができる「平家物語」はともかく、歴史の絵本は普通に作っていたら、学校の教科書となんら変わらないものになってしまう。史実を伝え、しかも楽しく読ませなくてはいけない現代の歴史絵本の難しさを痛感する。

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