加えて今は、身体障害者に対する言葉、文章を慎重に選ばなければならない時代で、蔑視の表現ととられないよう婉曲に表現した結果、かえって事実がぼかされてしまって、はっきりと伝わらない、ということもある。たとえば、本書「殿上の闇討ち」中の文章をそのまま引用すると、「……人々は拍子を変えて、平氏が伊勢に長く住んでいることと、忠盛の顔つきを、伊勢の瓶子(徳利)と素焼きの瓶にかけてあざ笑ったのだ」とあるが、次ページの忠盛像が美男子に描かれていることも加わって、このくだりを読んだだけでは状況は把握できないかもしれない。 |
『日本古典文学大系 平家物語・上』を見ると、簡単に「人々拍子をかへて、『伊勢平氏はすがめなりけり』とぞはやされける……」とあった。
多摩地方の方言に「めっかち」という方言がある。左右の目が極端に違うのをいうのだが、どちらかといえば身体障害者蔑視の言葉に入る。今ではこの言葉を使う人もいなくなったが、この場合の殿上の貴族たちも身体障害者を揶揄する気分ではやし立てたのだろう。そう見てくると貴族たちがあざ笑い、はやし立てた状況がよくわかる。言葉選びの苦労がしのばれる。
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