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ランスの専門誌に投稿し、相当高い評価
を得たと後で知りました。先生は最初
からそれが目的だったようで、ちょっと、
やられた!という顛末でしたね。

異聞・ニワトリの解剖

●さて、卒業後のお仕事にいきましょう
か。
○上村 就職が決まったのはヤクルトの
研究所です。実はその後、大学に残そう
と思っていたという話を教授から聞かさ
れて、海が近いですから海洋動物の分類
学をやるのも面白かったかなあと、今で
も思いますね。
●ヤクルトと生物学と、どうつながるん
ですか?
○上村 ヤクルトは先駆的な会社で、
腸内細菌の研究では今や世界的な研究
機関になってますが、醸造関係が中心で
すから農学部出が多かったんですね。そ
れが、当時の食品会社、乳酸飲料のメー
カーとして、本格的な実験用の動物の施

設を作ろうとした。そこで動物の技術
者・研究者が欲しいということになった
んです。ワタシは実習としてネズミやな
んかの解剖や標本づくりはやってました
けど、実験動物学はまったく未経験。し
かも参考書もほとんど無い。だから関
連学会の論文を読んだり、学会にマメに
参加したり、学生時代よりよっぽど勉
強したもんです。
●具体的にはどんな仕事だったんです
か?
○上村 ご承知のようにヤクルトは乳
酸菌の製品をメインに作っていますから、
その生物学的な効果をいろいろな動物
で試そうというわけですね。そのため
に、環境統御といいまして、いろんな動
物に温度や湿度を厳密に管理した感染
症のない環境条件を与えて、実験する。
暑い夏の時期と寒い冬の時期では反応が
違って、毒性が弱まったり強まったりす
るので、特殊な環境を人工的に作り出
すんですが、まあ実に大変なことなん
ですよ。もっと大変だったのは、たとえ

ば、人間の赤ちゃんにとって、母親の子
宮内にいる限りは無菌状態ですよね。
しかし生まれた途端に産道で菌にとりつ
かれちゃう。マウスってのは、この指のタ
テ半分ぐらいの小さなサイズで生まれ
てくるんですけど、これをね、無菌の環
境のなかで人工的にお乳を飲ませるん
ですよ。ワタシも何度かやりましたけ
ど、すぐ諦めました。もう神業!
●それで何が分かるんですかね。
○上村 たとえば、ヨーグルトなんかを
たくさん飲んで長寿になった、というよ
うな事実がありますよね。そういうこ
とを疫学的なことや経験則だけでなく、
実験結果から真実だぞと立証しようと
したわけです。ワタシは、悪玉菌、善玉
菌を無菌の動物に植え付けて、実際に
放射線を当てたりしてました。そうす
ると当然、動物は死にますが、悪玉菌
を持っていると死ぬ時期が早いんです
よ。善玉菌のは長生きするんですね。
●ふーむ……。
○上村 話が突然変わるけんど、高校
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