ね。やっと、「ただじゃ置けないよ」と言っ
てくれた。嬉しかったねえ、ほんと、嬉し
かった。
●植木屋さんを丁稚奉公から始めよ
うってわけか。しかし、よくそこまで
……
○上村 植木屋でなく、「庭師」って言っ
てほしいんですね。「ゲイジュツカ」の心
構えでいますから。庭師になろうと思っ
た理由は3つあって、定年がない、趣味
を生かせる、そして自分のトシや体力に
応じて仕事ができるってことね。でも、
やはり体力ですよ。実際、痛切にそう
感じましたね。夏は脱水症状、冬は雪で
転倒する。これまで使ってもみなかった
筋肉を酷使するもんだから、しばらく
は背中や腕が痛くって寝返りもできない
し、毎朝作業衣が着られないので家内に
着せてもらって出て行くことになって
……。
●これまでの仕事の質とまったく違うん
でしょうね。
○上村 気持ちもまったく違いました
|
ね。だってさ、自分の息子みたいなのが
先輩でしょ、そういうのに怒鳴られるわ
けね。この世界、腕が立たない者は黙っ
て従うしかないし、最初は彼らのほうが
腕はずっといいのだから、ともかく「は
い」と言って従う。こっちは先生と言わ
れていたときだってあったし、なんて汚い
言葉を浴びせてくるんだ、なんて物知
らずなんだ、と驚くことはたくさんあっ
ても、見栄を捨てないといけない、恨み
に思っちゃいけないんです。そもそも、こ
ういう場合、プライドっていうよりは、
見栄なんですよね。見栄さえ捨てれば
この世は楽し、ですよ。
●さあ、それで、いよいよ庭師開業とい
うわけですね。脱サラ庭師としては、開
業にはどんな道具が必要なんでしょう
か?
○上村 開業は、忘れもしない199
9年の4月。まず必要なのは、3種類の
はさみと脚立。それに軽トラック、切り
枝を堆肥に変えるチッパーという機械
に、倉庫などしめて150万と少々に、
|
この身体と技術を資本に始めたってこと
になりますね。
●庭師ビジネスの事業計画って、どんな
感じなんですかねえ。
○上村 ワタシ遅れて庭師を始めたの
で造園工事はほとんど仲間を頼みます。
まず、お得意さんを70軒もっていれば、
なんとかやっていけるんですよ。その根
拠は、単純な掛け算なんです。たとえ
ば、ひとつの仕事つまり「お手入れ」は
大体1軒あたり2日かけてやるのが相
場で、それをふつうは年に2回はやり
ますから、年に4日ってことになります
ね。で、4×70で280日、年に28
0日仕事が確保されることになるんで
す。サラリーマンだって土日祝と休めば
同じようなもんだから、庭師が働く2
80日だって決して少なくないはず、っ
ていうか、「ニッパチ」つまり2月と8月
以外は特に秋から暮れいっぱいが書き入
れどきですから、かえって密度は濃いか
もしれないなあ。
●どんな商売も、ニッパチはダメなんで |